東京都の新型コロナウィルス感染症対策サイトがオープンソースで開発されたこともありオープンソースソフトウェア(OSS)がIT系でないひとの目に触れる機会が増えてきました。その一方で、東京都以外の自治体がまったく同じ見た目の対策サイトの提供をはじめたことを目にしてネガティブにとらえるひともいます。これではせっかく頑張ってくれたひとたちが悲しんでやる気をなくしてしまうかもしれないので、なにが起こっているかをわかりやすく説明してみます。
キーワードはオープンソースソフトウェア(OSS)です。いわゆるIT系ではないひと向けにおおまかに説明します。
この記事でわかること
- オープンソースソフトウェア(OSS)はとても身近にある
- OSSは「自由」に使えるソフトウェアのこと
- なぜOSSはうまれたのか
- ライセンスとはなにか、守らないことで起こる問題について
- OSSとその開発者とのつきあいかた
この記事で説明しないこと
- OSSの使い方
- OSSライセンスの違い
- OSSライセンスの守り方
とても身近なOSS
オープンソースソフトウェア(OSS)は名前にソフトウェアとついているとおり、ソフトウェアの一種です。
そしてこのOSSはさまざまな場所でつかわれています。たとえば、DVDレコーダー、テレビ、ゲーム機、スマートフォン、など多くの電子機器につかわれています。
あまり聞いたことがなかったかもしれませんが、実はOSSはみなさんの生活になくてはならないものになっています。
「自由」に使える、けど、なんでもできるわけではない
オープンソースソフトウェア(OSS)は「とあるルールの範囲内」で「自由」に使えます。逆にいうといくらか「制限」があります。
このルールはOSSによって違うので、それぞれのルールを確認してルールを守ってつかわなければいけません。
なんだか難しそうですね。ただ、OSSを部品としてつかっている製品やウェブサイト(たとえばスマートフォンや新型コロナウィルス感染症対策サイト)を「つかうひと」は、OSSのライセンスについてあまり意識しなくても問題ないです。ここでは、自由につかえるけどなにかのルールがある、とだけあたまのすみに置いておいてください。
OSSは効率化するためにうまれた
IT系のひとたちの間ではオープンソースソフトウェア(OSS)はよく知られていて、開発に関わっているひとも日本にたくさんいます。なぜわざわざ時間をかけてソフトウェアを開発したのに無料で公開しているのでしょうか?
IT系のひとはお人好しが多いのでしょうか?
OSSの開発者たちはオープンにすることでメリットがあるためソフトウェアをOSSとして公開しています。たとえば、誰かがソフトウェアのうまく動かないところを直してくれたり、便利な機能を追加してくれることがあります。また、よいソフトウェアなので多くのひとにつかってもらいたいと開発者が考えている場合もあります。
新型コロナウィルス感染症対策サイトも世界中の開発者から改善の提案を受けています。台湾のオードリー・タン氏が修正を提案したことで一時話題にもなりました。また、東京都以外の自治体でも同じソフトウェアに少し修正を加えるだけで短い時間で各自治体向けの感染症対策サイトを作ることができます。「似たようなものをあたらしく作る」のではなく「同じものをどんどん流用する」ことで効率を上げているのです。IT系のひとたちはいい意味で面倒くさがりなので、同じことをくり返さないための努力おしみません。
ちょっとだけライセンスのおはなし
オープンソースソフトウェア(OSS)は「とあるルールの範囲内」で「自由」に使えます。このルールのことをライセンスと呼びます。
そのルールはソフトウェアによって違います。そして、IT系のひとたちはやっぱり面倒くさがりなので、よく使う似たようなルールに名前をつけてルールを流用することがあります。新型コロナウィルス感染症対策サイトで使用されているMITライセンスを含む、いくつかの有名なルールがあります。ルールの詳細についてはここでは触れません。
最後に覚えておいてほしいのは、ルールを守らない場合は訴訟に発展するケースがある、ということです。「自由につかえる」というのは「なんでもできる」ということではないのです。仕事等でOSSを採用する立場にあるひとは、法務部門のひとに相談しながらつかいましょう。法務部門のひとがOSSのライセンスに詳しくない場合は法務部門のひとと一緒に勉強してください。
いいものはたくさんほめて!
OSSの開発者たちはたいせつな時間をつかってソフトウェアを開発・公開しています。これはOSSに限りませんが、いいソフトウェアやウェブサイトを目にしたときはたくさんほめてください。開発者に直接つたえなくてもTwitterや日々の会話の中でふれるだけでかまいません。ふとしたときにほめられていることに気づくととてもうれしいものです。
もし、使いにくいところを見つけたときは、すぐに文句をいわずにしばらく日をおいてからもう一度見てみましょう。そのときまだ直っていなくて、やっぱり変えてほしいと思ったときは日頃の感謝をつたえつつ、「ここをこういうふうに変えるともっと使いやすくなると思うのだけど、どう思う?」と聞いてみましょう。提案したことはすべて通るとは限りませんし、忙しくて誰も対応できないかもしれません。それでも文句はいわないでください。IT系のひとたちもふだんの生活があって時間を大切にしています。また、デリケートなひとが多いので、ネガティブなことをいわれると傷ついてしまいます。
よく使われてよくほめられるOSSは開発者も多く、時間とともにさらに良くなります。あまり使われないOSSは開発者が去ってしまいます。もし、あなたがよいOSSを目にしたとしたらより良くするためにもたくさんほめてください。
おわりに
この記事を通して、なんとなくでもOSSがどんなものかイメージがつくようになっていただければ幸いです。
オープンソースソフトウェア(OSS)は「とあるルールの範囲内」で「自由」に使えます。
わたしができることはほとんどありません。この記事でOSSをなんとなくでも理解する人が増えることで、がんばっているIT系のひとたちの助けになればと思います。
もっと知りたいときは
もしOSSのルールについてもっと知りたいというひとには可知豊さんの「知る、読む、使う! オープンソースライセンス」がおすすめです。わたしはこの本でライセンスについて学びました。